NOEL

こんにちは。
A Study In Secretsの新沼研です。今日は、二つの作品を同時に紹介します。なぜ、二つの作品を同時に紹介するのか？それは、これからご紹介する二つの作品が、「同一のテーマ」を持った作品だからです。そして、そのテーマとは、予約開始日が2月14日、バレンタイン・デーであることと大きく関係しています。そうです。本日は、カップルの観客に喜んでもらう」ことをテーマに作られた二作品を紹介します。一つは私の作品。そして、もう一つは、新鋭クリエイター辻孝宗氏の作品です。

二つの作品に共通するテーマは「運命の愛」
して、もう一つ共通するテーマは「運命の選択」です。

どちらの作品もフェアで自由な選択が繰り返されます。

しかし、最終的に行き着く先は、常に二人の観客のハッピーエンドに行き着きます。

これは二つの作品で示し合わせたわけではないのですが、マジシャンに見せると、最後に「え、今のマジシャンズチョイス？」と言われることが多いのも共通しています（笑）

どちらの作品も「最後の選択」が非常にフェアに見えるため、マジシャンからすれば、マジシャンズチョイスのラッキーパターンに見えるようです。

ですが、そうではありません。二つの作品はそれぞれ別原理でフェアな選択を実現しています。

どちらもこの手のメンタルマジックがお好きな方は、その手法を知るだけで価値があるでしょう。

それでは、辻氏の作品「NOEL」からご紹介します。

青裏と赤裏、二つのトランプを使います。

あなた（＝マジシャン）は「二人の相性を見てみましょう」と言い、女性客に青裏のトランプを持っていてもらいます。

赤裏のトランプを男性客にシャッフル及びカットしてもらい、４つの山を作ってもらいます。

4つの山の中から、男性の観客に自由に一つの山を選んでもらいます。

「『過去』・『現在』・『未来』、様々な選択をしてきました。」と言って、選ばれた山の上から３枚のカードを出します。

他の山を確認し、他の山が選ばれていたら、違う３枚であったことを確認します。

「彼の選択が、全てあなたのためのものだったと言ったら、信じますか？」

女性客に持っていた青裏のトランプを取り出してもらい、女性客自身の手によってテーブルの上に広げてもらいます。

よく見ると、マークごとにA〜Kに並んだトランプの中で、３枚のみブランクフェイスになっていることが分かります。

「彼女の欠けているところを補うようにして、彼の選択はなされてきたのです。」と言って、男性客に選ばれた３枚のカードを表に向けます。

青裏のトランプに欠けたカードが選ばれたカードであったことを示して終わります。

「NOEL」は現象だけ見れば、予言トリックと捉えることもできます。

すなわち、観客によりシャッフル、カットされ、さらに自由な選択のもと決定された3枚が予言されている、という正統派かつマジシャンでも不思議な予言トリックです。

もちろん、そのように演じてもらうことも可能です。「カップルに演じる機会なんてないしなー」という方も、通常の予言トリックとして幅広く演じていただくことができます。

通常の予言トリックとしてもハイレベルな完成度となっていることを前置きした上で、このトリックをカップル向けにアレンジされた辻氏のセンスは抜群です。

多くの予言トリックにとって、下記のような問題が発生します。

なぜ、そのような手続きを踏むのか。
→例えば、なぜカードを3枚選ぶのか等

なぜ、トランプによって予言されているのか
→なぜ、紙に書かれた予言ではないのか。ほとんどの場合トリックの都合です。

なぜ、予言が当たるのか。
→マジシャンに予言能力があるのであれば、もっと予言して欲しいことはいくらでもあります。

これらの問題は放置されてしまうのが常ですが、「NOEL」は「カップル向けに演じる」というテーマを採用することで、これらの問題に対して非常にスマートな解答を出しています。

「予言トリックが演じ方一つでカップル向けになるって話でしょ？ふーん。」

で済まされてよい話ではありません。
一見当たり前に見えて、すっと受け入れられる発想ほど、とんでもないアイディアなのです。

辻氏から送られてきた「NOEL」の動画を見た時、これはマジシャンズ・チョイスのラッキーパターンが含まれているな、と率直に思いました。

それだけ、選択の過程と予言の示し方がフェアに見えたからです。

しかし、実際には観客の選択は完全にフリーであることを知って、二度驚きました。

現象をもう一度確認してください。
デックは男性客により、シャッフル及びカットされます。作られたパケットの選択も自由です。

女性の観客が持っているトランプももちろん一つしかありません。
そして観客自身の手によって、トランプを広げてもらうことができます。

重要なところは全て観客自身の手によって行われます。

特に、他のパケットを選んでいれば、全く異なる結果となっていたことが示された時、観客は強い衝撃を受けるでしょう。

「NOEL」が出来るまでの詳細な道のりを、Notesとして書き下ろしてもらいました。

プロトタイプから、試行錯誤を重ね、作品が独自性を獲得していく過程がよくわかります。

あなたはこのNotesを読むことで、精緻な作品がいかに組み上げられていくのかを追体験することができるでしょう。